9348 ispace 1Q後取材 20240927【初回取材】

2024/10/10

2024/12/19

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株探 バフェット・コード

スピーカー: 執行役員
P/E -x P/B 7.77x (取材記事公開日現在)

Q.御社が宇宙ビジネスを開始するに至った背景はどのようになっているのか?

A.現在の当社の前身となる「合同会社ホワイトレーベルスペース・ジャパン」の設立当初(2010年9月)は、ローバー(=月面探査車)の開発を行っており、Googleが主催する月面探査レースに参加し、中間賞を受賞していた。しかしながら、ローバーを月面へ運ぶ着陸船の開発を担っていたチームが継続を断念したため、自社で着陸船も開発することを決断し、2017年に当時シリーズAの国内最高額として103.5億円を調達して着陸船の開発に着手することとなった。また、同時期に、アメリカでアルテミス計画が発表されたことにより、NASAが民間企業から月面輸送サービスを購入するCLPS(=Commercial Lunar Payload Services)というプログラムを開始した。このプログラムには2028年までに26億ドルの予算が計上され、月面輸送サービスという市場が誕生したことから当社も市場へ参入した。

Q.数多く存在する惑星の中で、月が宇宙産業のターゲットとなっている理由は何故か?

A.月に存在するとされている水資源と、地球の6分の1である低重力を利用することにより、月を燃料補給中継地にするという構想があるためである。具体的には、2040年頃までに月の周回軌道及び月面上に宇宙拠点を建設し、燃料補給のインフラを整備することで、宇宙進出を加速させる計画である。この構想が実現した場合、宇宙活動におけるエネルギー効率が飛躍的に上昇する点で注目されている。

Q.事業内容はどのようになっているのか?

A.当社はペイロードサービス、パートナーシップサービス、データサービスを展開している。
ペイロードサービスは、ランダーと呼ばれる月着陸船を開発し、顧客の荷物(ペイロード)を輸送する、当社の主力サービスである。一連のミッションの内容は、まずSpaceX等のロケットを利用して当社のランダーを打上げ、ロケットから切り離された後はランダーの自力航行によって月面や月周回軌道までペイロードを輸送する。そして、顧客のペイロードや当社のランダー自身が収集したデータはランダーを経由して地球上へ送信される流れである。このサービスの利用料金は、想定単価約1.5MMドル/kgを設定している。
パートナーシップサービスは、当社のランダーやローバーの側面に顧客のロゴを掲載する形でマーケティング支援を行うだけでなく、技術開発や事業開発面での協業も行っている。
データサービスは、当社のペイロードから獲得したデータを顧客へ販売するサービスであり、今後の成長ドライバーとして期待している。

Q.月面輸送サービスではどのようなものを輸送しているのか?

A.輸送対象としては月面の環境情報の取得を目的としたセンサー類が中心であるが、その他には、水資源を探査・掘削するためのローバー、水を電気分解するための装置、宇宙空間における食料生産を目的とした藻の培養装置、衛星などもある。

Q.世界初の民間企業による月面着陸を試みたが、この一連のミッションの内容はどうなっているのか?

A.当社のミッション1として、2022年12月に民間企業で世界初となる月着陸船の打上げに成功し、2023年4月に月面着陸を試みたが着陸は未達であった。しかしながら、一連のミッションで設定していた10個のマイルストーンのうち、8個まで達成することができている。
なお、ランダーが月面着陸するためには姿勢制御と速度制御の技術が最も重要であり、ミッション1ではどちらの制御も成功していたが、着陸直前にソフトウェアによる高度の認識に誤りが発生し、着陸に失敗してしまった。

Q.今後のミッション内容はどのようなものを予定しているか?

A. 現在は日米の両拠点でミッション2、ミッション3、ミッション6を並行して進行している。
【ミッション2】
最速で2024年12月の打上げを予定しており、ミッション1と同様のランダーを打上げ、4~5ヶ月かけて飛行し、月面着陸の再挑戦を行うという流れとなっている。ペイロード契約としては、顧客数が5社、総契約金額が16MMドルとなっている。
主なミッション内容としては、ルクセンブルク法人で開発したマイクロローバーを自社のペイロードとして輸送し、レゴリス(=月面上の砂)を採取するという内容である。採取したレゴリスの所有権をNASAへ譲渡する予定であるが、これが成立した場合は世界初の月資源商取引となる。現時点でランダーの開発は完了しており最終試験の段階であるため、打上げは予定通り実施できる見込みである。
【ミッション3】
2026年に打上げ予定であり、アメリカで開発しているランダーを利用し、NASAのペイロードを運搬する予定である。ペイロード契約としては、顧客数はNASAを含めた3社、総契約金額が57 MMドルとなっている。ここで打上げるランダーは従来の機体よりも積載可能容量が増えていることが特徴である。さらに、このミッションでは月の南極付近への着陸を予定しているが、地球と月の裏側との通信網を確立させるため、2基のリレー通信衛星を月周回軌道へ投入する予定である。
【ミッション6】
2027年に打上げ予定であり、日本で開発しているランダーを使用する予定である。このミッションでは、日本のSBIR制度によって120億円の補助金が交付されるため、開発費用の一部を確保することができている。
現在の進捗状況として、ペイロード顧客については協議中であるが、日本に限らず海外の顧客とも契約したいと考えている。開発面では、2024年秋頃にランダーシステムのPDR(=仕様値に対する設計結果、設計検証計画の実現性を確認する審査会)の完了を目指して取り組んでいる状況である。

Q.複数ミッションを並行開発している理由は何故か?

A.トライアンドエラーのサイクルを確立させ、先発ミッションでの反省点を後発ミッションへ反映させるためである。複数ミッションの並行開発には強固な財務基盤が重要になるため、顧客からの前受金や補助金を活用しながら開発を進めている。

Q.現時点での現預金はどの所持しているのか?

A.1Q(2024年6月末)時点での現預金は126億円程度であるが、2024年7月に総額100億円のシンジケートローンを組成した。

Q.100億円のシンジケートローンの組成を可能にしたのは、銀行からどのような点が評価されたからであるのか?

A.当社は過去にもシンジケートローンを組成しており、今回のシンジケートローンを含めて累計で311億円 の借入をしている。これは時間をかけて金融機関との関係を構築し、事業内容への理解を得ることができた結果であると考えている。

Q.営業利益が発生するのはミッションの中のどこのタイミングになるのか?

A.現在適用している会計方針では、ミッションが完了したタイミングで発生する。

前提として、キャッシュベースではペイロードサービスは打上げの約2年前から契約をし、契約金は打上げ前までに9割程度が支払われるようになっている。
一方でPL認識としては、当社では現在収益認識に原価回収基準を適用しているため、入金された契約金は前受金としてBSに留保され、ミッション完了までの間は、開発進捗にあわせてその期間内で発生した原価と同額を売上として計上している。そして、ミッション完了後に、総契約金額からそれまでに計上した売上を除いた残りの金額を一括計上するため、このタイミングで初めて売上総利益が発生する仕組みとなっている。販管費として処理される費用も当然存在するため、営業利益が発生する可能性があるのは粗利益が発生するミッション完了のタイミングのみとなる。
また、宇宙開発は数年に渡る長期プロジェクトであり、一部の調達部材の納品が数カ月遅れた場合でも開発進捗に大きな影響は発生しにくい。一方で、PL上の原価(売上)として計上できる額は納品のタイミングによって変動するため、コストの高い部材の納品タイミング次第で四半期売上のボラティリティが発生しやすいことになる。ゆえに、四半期売上は必ずしも当社の本質的な事業進捗を示すものではないことに注意が必要である。

Q.開発費用の内訳としてはどのようなものが含まれているのか?

A.着陸船の開発費用と打上げ費用が含まれている。
ランダーはNASAが採用している設計手法に沿って開発を進めている。具体的には、概念検討、詳細検討等を経て設計を固めた後にエンジニアモデル(基本設計に基づき製作されるモデル)を製造し、環境試験を実施する。その後フライトモデル(実際に打ち上げるモデル)を製造し、打上げが実行されるという流れである。

Q.前受金は開発費用に充当されるという認識で合っているか?

A.その認識で合っている。ミッション1とミッション2は研究開発を目的としたミッションである都合上、前受金のみで開発費を賄うことが難しいため、財務活動により開発費を調達し充当している。ミッション3以降は、商業ミッションとしてより多くのペイロード契約を獲得することで、基本的に前受金で賄う想定であるが、ミッション3においてはリレー通信衛星2基も当社負担で輸送するため、一部を財務活動により賄っている。

Q.1つのミッションを実行するために必要な費用はいくらか?

A.現在はミッション3及びミッション6において、それぞれ初期モデルを開発中であるため初期費用として研究開発費用が多く含まれている段階である。しかし今後、モデルの量産フェーズに入った場合は打上費用と着陸船の開発費用が同程度になる予定である。Space Xが開示している打上費用は約67MMドルであるため、量産フェーズになった場合の1つのミッションに係る費用は約130MMドル程度になると考えているが、打上をまとめて契約することなどによるディスカウントなどの可能性もあるため、量産フェーズ以降も引き続き費用の低減に取り組んでいく想定である。

Q.パートナーシップサービスの売上が発生するのはどのタイミングになるのか?

A.契約を締結してからパートナーシップ・プログラムが終了するまでの期間で総契約金額を按分して売上に計上している。パートナーシップサービスで発生する費用は主に人件費であるため、ペイロードサービスと比較しても売上総利益が発生しやすいサービスとなっている。

Q.販管費は研究開発費、給与及び手当、その他に分類されているが、研究開発費は具体的に何が含まれているのか?

A.大部分がミッションの開発費用である。ミッション1とミッション2が研究開発を目的としたミッションであるため、原価ではなく研究開発費用として計上されている。また、商業ミッションであるミッション3は大部分が原価として計上されるが、「APEX1.0」ランダーという初期モデルの開発に伴い、研究開発費用も一部発生している。

Q.前期3Qで研究開発費用が大きく増加しているのは、ミッション1の打上げに係る費用が計上されているためか?

A.その認識で合っている。打上費用は打上げの2年程度前から分割して支払い、前払費用をBSへ留保し、打上げ完了後にPLへ計上しているという仕組みとなっている。商業ミッションの場合はこの打上費用は原価として計上されるが、上述のとおり、ミッション1は研究開発ミッションであるため、打上費用も研究開発費用として計上された。

Q.競合する企業は存在するのか?

A.競合はアメリカの上場企業であるIntuitive Machines 、非上場企業であるAstrobotic、Fireflyの3社のみとなっているが、最大の競合はIntuitive Machinesであると考えている。
Intuitive Machinesは2024年2月に世界初の民間企業による月面着陸に成功している。
AstroboticはIntuitive Machinesより先に月面着陸ミッションを試みたが、宇宙空間到達後に燃料漏れが発生し、ミッションは失敗している。
Fireflyは2024年冬から2025年にかけて月面着陸ミッションに挑戦する予定である。

Q.今後の宇宙ビジネスはどのように変化していくと考えているか?

A.2022年12月に当社のミッション1打上後、Astrobotic、Intuitive Machinesのアメリカ民間企業2社も打上げを実施し、政府ミッションとしてもインドのチャンドラヤーンやJAXAのSLIMが月面着陸に成功するなど、月面ミッションの活性化が著しい。加えて、日本に焦点を当てると、当社の上場を皮切りに、続々と国内の宇宙関連企業が上場しており、産業の拡がりとマーケットからの注目の高さを感じる。そのような状況から、今後の宇宙ビジネス市場は益々拡大していくと予想しており、当社としてはミッション実績を確立させ、拡がる潜在需要を獲得していくことが重要であると考えている。

Q.NASAJAXAなどの政府機関と民間企業は宇宙産業においてどのような役割や関係性となっているのか?

A.現在の宇宙ビジネス市場は、まだNASAやJAXA等の政府機関が主導しているものの、政府機関が民間企業へ発注してサービスを買っていこうとする民営化が進んでおり、政府機関は当社にとっても大切なペイロード顧客となる存在である。
現在、NASAのアルテミス計画の一環として、月を燃料補給拠点とする構想が発表されているが、日本もアルテミス計画に参画している。更に日本では、宇宙戦略基金が設立された。これは政府が輸送、衛星、探査部門において民間企業や大学等へ資金提供するという施策であり、宇宙産業・宇宙市場を拡大させることが主目的の一つとなっている。

Q.コマツとコンサルティング契約を締結した理由は何か?

A.2024年7月に建設機械メーカーであるコマツとコンサルティング契約を締結した。コマツは月面機器の開発を目指しているため、試験機の設計等に関して当社がコンサルティングを提供している。今後は、コマツだけでなく、コンサルティングを提供した企業・大学が開発する試験機の月面輸送など、当社の事業機会の拡大・獲得が期待できる。

Q.データサービスのポテンシャルについて投資家はどのように評価しているか?

A.データサービスのポテンシャルに関心を持っている投資家もいるが、データサービスを提供するためには月面着陸ミッションを成功させることが最重要であるため、目下の月面着陸・探査ミッションに関心が集まっている印象を受ける。

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